司法研修所の教材について written by 76期司法修習生 佐藤 和樹
1 はじめに
今回は、司法研修所の教材について、ご紹介したいと思います。
司法試験に合格後、司法修習開始前に、司法研修所から司法修習中に利用する教材が送付されます。送付される教材は大変多く、文量も多いものから比較的薄めのものもあり、どの教材から手を付けていったらよいのかわからない方も多くいらっしゃると思います。
また、司法試験受験生においても、司法研修所の教材を知ることで、司法修習ひいては司法試験において何が求められているのかを知る手掛かりにもなりますし、司法修習に向けて迷うことなく、スタートダッシュを切ることができます。
そこで、今回は、各科目における司法研修所の教材に着目し、ご紹介したいと思います。
なお、以下ご紹介する教材は、司法修習中に利用する教材の一部になり、全てではありません。数多くある教材のうち、特に重要度の高い教材に絞ってご紹介しますので、その点はご留意ください。
2 司法研修所の教材
1 民事裁判
民事裁判の教材では、①新問題研究要件事実、②紛争類型別の要件事実、③事例で考える民事事実認定(いわゆるジレカン)、がメインとなる教材になります。
民事裁判起案では、要件事実を意識した論述が求められます。そのため、基礎的な要件事実については、理解をしたうえで、ある程度は覚えておく必要があります。
そのための教材として、①新問題研究要件事実と②紛争類型別の要件事実が大変お勧めです。
要件事実を学ぶのが初めての方は、①新問題研究要件事実を一通り熟読した後に②紛争類型別を読み進めましょう。
要件事実を学んだことのある方は、②紛争類型別の要件事実から読み進めるとよいでしょう。
①新問題研究要件事実と②紛争類型別の教材はいずれも、市販されていますので、要件事実の勉強をしたいけれども何から手をつけてよいのかわからない司法試験受験生にもお勧めです。
③事例で考える民事事実認定(いわゆるジレカン)の教材は、民事裁判の修習において必読書です。民事裁判の起案をするにおいて、事実認定における4つの判断枠組みや事実認定の仕方について、大変わかりやすくまとまっています。
2 刑事裁判
刑事裁判の教材では、①刑事事実認定ガイド、②プロシーディングス刑事裁判(いわゆるプロ刑)、③プラクティス刑事裁判(いわゆるプラ刑)がメイン教材になります。
刑事裁判の起案においては、民事裁判と同様に事実認定が非常に大切です。事実認定において、何が争点(要証事実)となり、当該争点に対して、いかなる証拠からいかなる事実が推認され、当該事実から要証事実を推認することができるか等を丁寧に論じることになります。このような論述過程を学ぶ教材として、①刑事事実認定ガイドが大変お勧めです。
刑事裁判の起案では、刑事訴訟法に関する小問も出題されます。また、刑事手続きの実務における流れを一通り学ぶことが出来る教材として、②プロシーディングス刑事裁判(いわゆるプロ刑)、③プラクティス刑事裁判(いわゆるプラ刑)があります。いずれの教材も、具体的な事案が掲載されているだけでなく、書証の書式集も掲載さていますので、具体的なイメージを掴むことができます。
3 検察
検察の教材では、終局処分起案の考え方(令和元年版)が必読書です。検察の起案は、他の科目とは異なり、答案の枠組みが非常に明確です。その分、起案の枠に記載されていることについて論述を落としてしまうと、大きな減点となりかねません(その逆で、起案の枠さえきちんと抑えることができていれば、大きな減点を抑え、安定した点数を取ることができるでしょう)。
そのための教材は、まさに終局処分起案の考え方(令和元年版)です。この教材には、検察の起案に関するエッセンスが全て凝縮されており、何度も何度も読み返すことで、新たな発見がその度に見つかる程、質の高い教材です。
その他、検察講義案という比較的厚めの教材もありますが、通読用ではなく、辞書的に利用することをおすすめします。
4 民事弁護
民事弁護の教材は、①民事弁護の手引き、②民事執行、③民事保全がメイン教材となります。
民事弁護の起案では、一方当事者の代理人として答弁書や準備書面の起案をすることになりますが、いざ起案をすると、何をどこまで記載すればよいのか戸惑うことが多いと思います。そこで、民事弁護の手引きが役立ちます。当該教材にも、具体的な事例を想定した準備書面等が掲載されており、代理人弁護士がどのように主張書面を記載しているのかを学ぶことができます。
また、民事弁護の起案では、民事執行・保全に関する小問も出題されます。実務においても、頻繁に用いるであろう民事執行・保全ですので、司法修習中にある程度の理解を深めておく必要があります。そのためには、上記②民事執行と③民事保全の教材を活用することをお勧めします。
5 刑事弁護
最後に、刑事弁護についてです。刑事弁護の教材は、刑事弁護の手引きという教材を活用することをお勧めします。
刑事弁護では、被告人の代理人として弁護をすることすることになりますが、起案でどのように論じればよいのかわからない方もいらっしゃると思います。刑事弁護の手引きには、ケースセオリーの確立から、起案の骨子(結論→理由)を学ぶことができます。
3 まとめ
以上のように、司法研修所の教材について、各科目によってメインで利用すべき教材が異なります。
この記事で少しでも司法修習中に利用する教材を知ることで、今後の司法修習をより充実したものにして頂ければ幸いです。